ハニービール「ブラゴット」について

2025年3月2日

蜂蜜を使ったビールとしてハニービール(Honey beer)という表現を聞いたことがあるかと思いますが「ブラゴット(Braggot)」という名称があるのをご存知でしょうか?

クラフトビールのスタイルの一つとして認識している方が多いかもしれませんが、実は蜂蜜酒ミード業界でも比較的知られているワードで、ミードのスタイル一つとする認識もありその定義は幅があります。

共通しているのは、蜂蜜と麦芽(モルト)を使って造られるお酒のスタイルを指している言葉でよく「ビールとミードのハイブリッド」などと形容されています。

 

ブラゴットはビールとミードのハイブリッド

メソポタミア文明の頃にビールの女神(あるいは醸造の女神)「ニンカシ(Ninkasi)」を讃えて歌われた「ニンカシを讃える歌(The Hymn to Ninkasi)」では蜂蜜を使ったビール造りが謳われていたり、紀元前に存在したとされるミダース王(King Midas)の墓から出土したカップには麦芽、蜂蜜、葡萄の成分が残されていたとされています。

諸説あるものの、こうした歴史的背景からビールと蜂蜜の組み合わせは非常に古くから存在していたことがわかります。ルネッサンス後期にはヨーロッパで広く飲まれていたほか、ウェールズでは1800年代まで主要なお酒の選択肢として存在していました。


ビールや醸造の神が"女神"である理由は、その昔ビール造りが女性の役割だったからだとか。。。

 

ミードの聖地で親しまれていたブラゴット

ブラゴットには”Braggot”以外にも様々な表記が存在し”Bragget, Bragaut, Bracket, Bragot, Bragawd”などアイルランド語やウェールズ語にルーツを持ついくつかの単語が存在します。”Brach”や”Brag”は「発芽」や「モルト」を意味する単語です。

蜂蜜のお酒「ミード」の中に「メセグリン」と呼ばれるスタイルが存在し、語源がウェールズにありケルト地方でよく飲まれていたというのは以前の記事でご紹介しました。(記事:”ハーブ&スパイス系ミード「メセグリン」スタイル”

ミードが親しまれていたケルト文化圏でブラゴットが飲まれるようになったことは、むしろ必然の出来事だったと言えるでしょう。



中世のビールと蜂蜜やホップの関係

16〜17世紀頃にビール醸造家たちは発酵を終えた麦芽を再度使用していわゆる二番煎じのビール醸造を行っていたそうで、その際にそのままでは低品質なビールになってしまうところを蜂蜜を加えて比重を高めるという醸造方法が採用されていたこともわかっています。

ブラゴットが飲み始められていた初期の頃にはホップはお酒造りには使用されておらず、スパイスやハーブで風味や苦味を与えていたとされています。オリジナルのブラゴットは非常に複雑で比較的甘みの強い味わいだったのではないかとされています。

ブラゴットというお酒は、19世紀中頃までイギリス北西部のランカシャー地方で続いていたとされていましたが、その後消滅していき20世紀後半になってスタイルとして復興の兆しを見せ始めてきました。

"ケルト人が大自然でハニービールを楽しむ画像"をAI作成した結果ジョッキやピッチャーで提供されました。。。

 

現代のブラゴットの定義

では現在のブラゴットはどうでしょうか?”The Beer Judge Certification Program(BJCP)”はブラゴットについて「ミードとビールが調和した両方の個性を持つスタイルで、元となるビールのスタイルや蜂蜜の種類により甘さや強さなどの味わいは幅広い」と記しています。

つまり幅広い色合い、蜂蜜の種類、モルト、ホップ、苦味、スパイス、炭酸の強さを許容しているスタイルといえ、インペリアルスタウトのように幅があるスタイルだといえます。

ただBJCPは「蜂蜜の割合が比較的少ないブラゴットは”Alternative Sugar Beer”のスタイルにカテゴリーされる」や「蜂蜜とビール以外の原料が入っているブラゴットは“Open Category Mead”のスタイルにカテゴリーされる」とも明記していて、ブラゴットに蜂蜜やミードとしての側面を強く持たせているのがわかります。

英語記事の筆者(醸造士)は「明確なガイドラインがないものの蜂蜜の割合が15%では低すぎで少なくとも40%は与えたい」と紹介していて、蜂蜜の表情を強めに表現させるスタイルだと結論づけています。

クラフトビールもクラフトミードも盛んなアメリカではコンペの参加要件としてブラゴットの定義もあるようです。

 

オリジナルは麦芽:蜂蜜=50%:50%

古代から飲まれていたオリジナルのレシピでブラゴットを再現しようとすると、蜂蜜50%と麦芽50%で造られ微発泡から無発泡のお酒が完成するそうです。

その他にも「蜂蜜50%以上はブラゴットでそれ以下はハニービールとする」や「完成したミードとビールを混ぜてもブラゴットと呼んで良い」などと紹介しているページもあるので、その線引きは定義したい人の都合によって様々に議論されているようです。

完成品のミードとビールのミックスで良いなら私たちでも簡単に作れて楽しめそうですよね。好きなスタイルのミードとビールを割合を変えながら混ぜたりすることで自分好みを探してみるのも良いかもしれません。


リトアニア産ミードがブラゴットに向いてる理由

実は私が輸入をしている「リエトヴィシュカス・ミドゥス社(リトアニア)」のミードは元々ビール醸造士だった創業者がミード製造に切り替えて成功した背景がありビール醸造技術が各所に応用されています。

欧米で生産されるミードで使われる酵母の主流はワイン酵母なのに対し、ビール酵母を使って醸造しているという珍しいタイプのミード。しかもブラゴットが元々飲まれていた地域とルーツを共にするメセグリンスタイル(ハーブとスパイスを使用したスタイル)のミードを主に醸造していて、このミードはブラゴットとして使われるのに非常に適しているのではないかと期待しています。

ビールにも様々なスタイルがあるので、組み合わせをいろいろ試してみるのは興味深いかもしれません。私自身も時間ができたら試していずれご紹介できればと思います。

 

おわりに

というわけで「ハニービール「ブラゴット」について」いかがでしたでしょうか?ミード同様に歴史が古いこともあって明確じゃない部分が多く、スタイルに幅があるのは遊びがあって良いですよね。

ぜひ皆さんもお好きなビールやミードでブラゴットしてみてはいかがでしょうか?

それではまた。


 

[参考URL]

 

 

当店オンラインショップで取り扱っているリトアニア産ミードは主にこの3種類。少し割高ですがAmazonでも買えます。(名前で検索してみてください!)

 

 

[筆者]

橋本佳樹

リトアニア製品の輸入販売を行うスベンテ合同会社代表。社会人時代に音楽業界、芸能業界でのキャリアを経て海外へ留学。現在の妻と出会いリトアニアを知る。帰国後は異業種の輸入業に挑戦するため輸入商社で修行ののち独立し起業。リトアニアのお酒を中心に輸入業を経営しながらリトアニアの情報発信を行なっています。