ミードネクターというお酒について
はじめに
今回は”Mead Nectar”(ミードネクター)と呼ばれるお酒について私の輸入体験を通して詳しく書いてみたいと思います。ミードネクターはハチミツ、ハーブ、ベリーなどを使ってできるお酒のジャンルの総称で、日本の酒税法では「リキュール」に分類される世界でリトアニアだけが生産しているお酒です。
- はじめに
- 蜂蜜酒ミードからできるお酒
- どうやって作るの?
- 3銘柄に共通する3本柱
- 「甘さ」担当の蜂蜜酒ミード
- 「香り」担当のハーブとスパイス
- 「果実味」担当のベリー
- 国の遺産として登録されたリキュール
- 味わいの違いは?
- オススメの飲み方
- 蜂蜜大国リトアニアの酒
- 海賊バイキングが好んだお酒
- ビール造りからミード造りで成功
- おわりに
蜂蜜酒ミードからできるお酒
そんなミードネクターについてお話する前に「ミード」と呼ばれるハチミツのお酒について理解しておく必要があります。が、長くなるのでミードについては知っている前提でお話を進めたいと思います。(ミードをより詳しく知りたい方はコチラの記事もオススメです)
簡単に解説するとミードとは蜂蜜を発酵させてできるお酒で、ブドウからできるワインやお米からできる日本酒などと同じ「醸造酒」にカテゴリされるお酒。お酒の起源はミードだったという説が有力で「世界最古のお酒」とも呼ばれています。ファンタジー系の小説、ゲーム、映画などにも出てくるので「聞いたことがあるけど飲んだことはない」という方が意外と多いお酒だと思います。
どうやって作るの?
「ミードネクターってどんなお酒ですか?」というのは対面販売を行っている時によく聞かれる質問です。とても複雑なお酒で説明が長くなるので紹介する時は「ハチミツとハーブとベリーのリキュールです」とまず見出し的な一文を添えて試飲していただいています。
でもお酒への探究心の強い方からすると「それらをどうやったらできるお酒なのか?」という質問が続きます。今回はそこを掘り下げてみようということです。
3銘柄に共通する3本柱
「ミードネクター」はリトアニアの蜂蜜酒専門のブルワリー「リエトヴィシュカス・ミドゥス社」が1963年から生産している新しいジャンルのお酒(リキュール)で彼らがこのジャンルを「ミードネクター」と名付けました。現在ミードネクターには3つの銘柄があります。
- ”Vilnius”(ヴィリニュス) - Alc.25%
- ”Sventine”(スヴェンティネ) - Alc.30%
- ”Suktinis”(スクティニス) - Alc.50%
これら3つはいずれも「ミードネクター」として基本的な製造工程は同じですが、使われている原料やアルコール度数が異なります。共通している主な点として下記の3本柱があります。
- 「ミード」や「ミードの蒸留酒」が使われている。
- 「フレーバードスピリッツ」が使われている。
- 「ベリーの果汁」が使われている。
順に詳しくご紹介していきます。
「甘さ」担当の蜂蜜酒ミード
ミードは蜂蜜を発酵させたお酒ですが、実はミードにもいろいろ種類があってその一つに「メセグリン」というハーブやスパイスを使って風味付けされているスタイルが存在します。ミードネクターで使われているのはこの「メセグリンスタイル」のミードで主にホップ、リンデン、ジュニパーベリーが使用されています。
このミードはそのまま完成するとリトアニア産のミード「スタクリシュケス」などの銘柄になっていきますが、これをミードネクターに使用するのです。またこのミードをポットスチルで1回蒸留したミードの蒸留酒も使用されています。これらがいわばミードネクターの「甘さ」を担当している部分です。
「香り」担当のハーブとスパイス
一方でハーブやスパイスの高い香りが楽しめるのもミードネクターの特徴です。ミードネクターに使われるハーブやスパイスは8種類のヴィリニュスから14種類のスクティニスまで銘柄ごとに異なるバリエーションがあります。
リンデン、ジュニパーベリー、ディルなど共通したハーブを使用している点がある一方で「ヴィリニュス(25%)」にはニガヨモギ、「スクティニス(50%)」にはブラックペッパーやミントなどが使われ銘柄ごとに異なるハーブで個性を出しているのも特徴です。
これらのハーブやスパイスをライ麦などの穀物から造られたスピリッツに浸漬する(漬け込む)ことで香り付けを行いフレーバードスピリッツ(香りの付いたスピリッツ)としてミードネクターに使用されます。ジンに代表されるような高い香りを実現しミードネクターの「香り」を担当しているわけです。
(※2025年1月現在、「スヴェンティネ(30%)」は日本での取り扱い前のため一部詳細を割愛させていただいております。)
「果実味」担当のベリー
3本柱の最後はミードネクターの淡いルビー色の元にもなっているベリー果汁。北欧といえばベリーというほど北欧には様々なタイプのベリーが存在しています。その北欧の代名詞でもあるベリー果汁を使ってふくよかな味わいを実現しています。
このベリーにも銘柄ごとに異なる特徴があり、「ヴィリニュス(25%)」にはストロベリー(いちご)、「スヴェンティネ(30%)」にはブルーベリー、クランベリー、チェリーの3種類、「スクティニス(50%)」にはカシス、ブルーベリー、レッドカラントの3種類のベリーが採用され、それぞれのベリー果実が持つ個性的な「果実味」を担当しています。
国の遺産として登録されたリキュール
以上の3本柱がバランスよく調和したリキュールが「ミードネクター」になります。生産にはおよそ1年を要するお酒で3銘柄ともにリトアニア国内では国家遺産に登録される貴重なお酒になっています。日本では馴染みのない「ミードネクター」というお酒が少しでもイメージしやすくなっていれば幸いです。
味わいの違いは?
「ミードからできるお酒でミードと名前に付いたお酒だから甘口だろう」というイメージで体験するとかなり違う印象を受けると思います。ミードとは全く違う「ハーブのお酒」(薬草酒)をベースにイメージした上で、下記の特徴が加わっているイメージを持つと近いのではないでしょうか。
- ヴィリニュス(Alc.25%)
3種類の中ではアルコール度数が一番低く蜂蜜の甘さを感じやすい。いちごの果実味もあって初心者でも飲みやすいタイプ。
- スヴェンティネ(Alc.30%)
口の中に3種のベリー(ブルーベリー、クランベリー、チェリー)の果実味が広がり甘さより華やかさが楽しめる。
- スクティニス(Alc.50%)
ハーブの高い香りが特徴。現地リトアニアでも風邪っぽい時に飲まれるそうでハーブをふんだんに使ったまさに薬酒のような感じ。カクテルベースや焼き菓子作りに最適。
オススメの飲み方
現地では基本的にショットで楽しまれているようですが、少し度数が強過ぎると感じる方は、こんな飲み方がオススメです。
- 個性をそのまま楽しめるのは「ストレート」や「ロック」。
- 「ソーダ割り」で甘さや風味をキリッとさせて楽しむ。
- 「トニックウォーター割り」で飲み口もスッキリ。
- 「お湯割り」で湯気から広がる香りを楽しむ。
柑橘系やハーブ系のリキュールとも相性が良いのでオリジナルカクテルを試してみたい方はそちらも参考にしてみてください。また銘柄ごとの特徴から提案するオススメの飲み方としては、
- ヴィリニュス(Alc.25%)
砂糖を控えめにして紅茶やハーブティーに加える。「ヴィリニュス」の特徴でもある甘さがハーブの香りを引き立ててくれるはずです。
- スヴェンティネ(Alc.30%)
果実味が豊かなのでオリジナルカクテルで味わいを追求するならこの銘柄が面白いと思います。ベリーとハーブのバランスがカクテルに反映されると思いますよ。
- スクティニス(Alc.50%)
ショートカクテルのベースに最適なのはもちろんですが、冷凍庫に入れても凍らず少しとろみが出る程度なのでハーブが喉を駆け抜けるアイスコールドショットもオススメです。
(ミードやミードネクターを使ったカクテルレシピはこちらのページでもご紹介しています。)
ミードネクターで作るマティーニ「ネクターマティーニ」は同じレシピで作るとマティーニより度数が強くなります。
蜂蜜大国リトアニアのお酒
最後に「なぜミードやミードネクターという特殊なお酒がリトアニアで国家遺産になるほど有名なのか?」について私見を交えてお話すると、まずリトアニアは蜂蜜大国である点が挙げられます。
リトアニアの養蜂家の数は日本の養蜂家の数とほぼ同じ1.2万戸*だそうで人口は日本の40分の1。つまり蜂蜜を生産する人の比率がかなり高いのがわかります。バルト三国はおよそどのスーパーでも国産の蜂蜜が売られているので、訪れたことがある方であれば蜂蜜がかなり生活に結びついているのがわかると思います。
海賊バイキングが好んだお酒
また10世紀前後に北欧やバルト海を拠点にしていたバイキング(北欧の海賊)の時代には、はちみつのお酒ミードが貴重なお酒でバイキングたちは略奪した船にミードが乗っていると自前のバイキングホーンにミードを注いで宴をしていたとも言われています。
今回ご紹介しているミードやミードネクターの生産者「リエトヴィシュカス・ミドゥス社」のロゴにもバイキングホーンがあしらわれていて、北欧とミードの関係性を象徴していますよね。
ビール造りからミード造りで成功
「リエトヴィシュカス・ミドゥス社」の創業者は、もともとリトアニアでビールの醸造士をしていたのですがミードの生産に切り替えて成功し、その後ミードにまつわる様々なお酒を生産するようになっていきました。ミードにホップが使われていたりビール酵母を使って発酵したりするのはその名残りでしょう。
ただ、北欧やバルト三国でミードの生産者が多いわけではないので「リエトヴィシュカス・ミドゥス社」は非常に特殊な成功例だったのかもしれません。その後、エリザベス女王から特許を受けるなどの実績を重ねリトアニアの国家遺産にも登録されるに至りました。EU地理的表示保護のミードを世界で唯一生産するなどその歴史や実績が認知されリトアニアの有名なミード生産者となりました。
リトアニアはウォッカの生産も有名で、度数の高いお酒は生産も消費も得意としています。そういう意味では甘口の醸造酒ミードより度数の高いミードネクターの生産に力を入れているのも納得です。
創業当時のリエトヴィシュカス・ミドゥスのブルワリー。誰もやってないことに挑戦していたんですね。
おわりに
40mlのミニチュアボトルから500mlの大瓶もある「ミードネクター」。当店オンラインショップでご購入いただけるほか、少し割高ですがAmazonでもご購入いただけます。(ミードネクターで検索してみてください)
まずは味を試してみたいという方は、東京中心になりますがイベント出店をしていますのでそちらでぜひ試飲してみてください。イベント情報はSNSなどでお知らせしています。
以上、「ミードネクター」についてのご紹介でした!
当店オンラインショップの「ミード」や「ミードネクター」は下記のボタンからご覧いただけます♪
*[参考URL]
“養蜂をめぐる情勢” - 農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/lin/sonota/bee.html
“Lithuanian honey production and export volumes on the rise” Vesta Tizenhauzienė - BBC https://www.lrt.lt/en/news-in-english/19/1471961/lithuanian-honey-production-and-export-volumes-on-the-rise
[筆者]
橋本佳樹
リトアニア製品の輸入販売を行うスベンテ合同会社代表。社会人時代に音楽業界、芸能業界でのキャリアを経て海外へ留学。現在の妻と出会いリトアニアを知る。帰国後は全く異なる輸入業に挑戦するため輸入商社で修行ののち独立し起業。リトアニアのお酒を中心に輸入業を経営しながらリトアニアの情報発信を行なっています。