リトアニアの歴史を描いた映画「Ashes in the Snow」

独立前の激動のリトアニアを描く

映画好きな人にとっては推しの国が有名な映画のロケ地に使われてたら嬉しいですし、ロケ地を訪ねたいと思うものですよね。リトアニアにもそうした場所はいくつかありますが、今回はリトアニアの歴史を描いた映画「Ashes in the Snow」をご紹介したいと思います。

リトアニアが制作した作品でここまで本格派なのは珍しいくらいですので、映画好きでリトアニア好きな方は必ず見て欲しい作品です。ソ連の支配下に置かれた当時のリトアニアを描いていて歴史も勉強できる作品になっています。

 

原作はNY Timesのベストセラー小説

リトアニアという国がたどってきた痛々しく衝撃的な物語を綴った映画「Ashes in the Snow」は一般公開前の段階で最高のリトアニア映画の一つと評され、制作、脚本、衣装、音響、編集、そして個性的な登場人物が創り上げた作品に大きな注目が集まっています。

この映画はリトアニア生まれの作家ルータ・セペティス(Rūta Šepetys)の著書でニューヨーク・タイムズのベストセラー小説"灰色の地平線のかなたに"(Between Shades of Grey)が原作。リトアニアの推奨学生図書にもなっている同著は世界27カ国で翻訳されています。

 

オスカー受賞者が固める優秀な制作チーム

監督兼脚本を務めるのはマリウス・マルケヴィチュス(Marius Markevičius)。リトアニアの独立とバスケットボールリトアニア代表を追ったドキュメンタリー作品として高い評価を獲得した映画「The Other Dream Team」(もう一つのドリームチーム/2012年)の監督として知られています。今作ではリトアニア人だけでなく世界中のオーディエンスへ向けて儚さと緊迫感のあるヒューマンドラマを監督。アメリカ人、イギリス人、リトアニア人と国際色豊かなチームでの制作となりました。

プロデューサーは有名なリトアニア映画「Tadas Blinda: The Beginning」(ファイヤーハート 怒れる戦士/2011年)のプロデューサーとしても知られるジルヴィナス・ナウヨカス(Žilvinas Naujokas)。カメラマンは国際映画祭での受賞歴を多数持つラムーナス・グリチュス(Ramūnas Gricius)。編集を務めるヴェロニカ・ジャネット(Veronika Janet)はジェーン・カンピオン監督の作品でオスカーノミネートの経歴を持ち、音楽を担当するフォルカー・ベルテルマン・ハウシュカ(Volker Bereltlmann-Hauschka)は「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」でアカデミー賞の受賞歴を持ちます。

映画「Ashes in the Snow」は完成に5年を要しました。700人を超える群衆シーン、実景、衣装や役者陣の演技の結集である本作はリトアニア映画のマスターピース。原作の小説の方がはるかに良かったという場合が多い原作映画にあっても、本作品は原作小説同様に高い評価を受ける作品だと言えるでしょう。

 

シベリアへと追放された過去

ハリウッド公開も控える「Ashes in the Snow」は世界中に向けリトアニア及びバルト三国の歴史を伝えています。主人公の女性リナ・ヴィルカイテの目線で1941年6月14日の夜のことを映し出す本作。NKVD(旧ソ連の諜報機関)の突然の訪問により母や兄弟とともにシベリアの動物輸送車に投げ込まれ、平和だった生活と画家としての夢を粉々に砕かれたリナ。何十万人にも上るリトアニア人、ラトビア人、エストニア人は彼女と同じ運命を辿ることになるのでした。

何の罪もない人々をシベリアへと追いやった過去の歴史。その奥深くへ引き込まれる役者陣の迫真の演技。人が人として扱われないような環境にあっても誠実さと希望が生き延びる力になる。そしてその力が"我が家へ帰る"という信念を保つ原動力になることを目の当たりにすることでしょう。

 

国外の役者が演じるリトアニア人

リトアニア人の役者だけでなく国外の役者が演じるリトアニア人の活躍も光る今作。主人公リナ・ヴィルカイテを演じるのは「ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出」(A Royal Night Out)での好演が光るイギリス人女優のベル・パウリー(Bel Powley)。リーサ・ローヴェン・コングスリ(Lisa Loven Kongsli)演じる主人公の母エレナ・ヴィルケはシベリアへ追放された人々に希望をつなぐ重要な役どころであり、シベリアで恐怖の中で生き抜く子供たちへ救いの光を灯し続けます。

もう一人の興味深い役どころはNKDV諜報員ニコライ。自身が抱える悪との葛藤は人間らしさが彼を崩壊させるのかというもう一つの見どころを提供してくれます。

<その他のキャスト>

ソフィ・クックソン(Sophie Cookson/映画「キングスマン」出演)
ペーテル・フランツェーン(Peter Franzén/TVシリーズ「バイキング」出演)
マルティン・ヴァルストロム(Martin Wallström/TVシリーズ「Mr.ロボット」出演)

<リトアニア人キャスト>

アイステ・ディルジューテ(Aistė Diržiūtė)
ラムーナス・シセナス(Ramūnas Cicėnas)
ガビヤ・ヤラミナイテ(Gabija Jaraminaitė)
ダリウス・メシュカウスカス(Darius Meškauskas)

 

残酷な歴史の1ページを開く

本作ではリトアニアの歴史の中でも極めて痛々しいページに手を掛けたと言えます。1000を超える衣装、ヘアメイク、装飾などが反映する当時の雰囲気、カメラが捉えた息を飲むような景色の数々、音楽が与える強烈なスリル。映画「Ashes in the Snow」であなたは苦しんで生き抜いた人々の真実の経験を目の当たりにするでしょう。

 

「Ashes in the Snow」予告編はこちら
(原題"Tarp pilkų debesų")

2018年10月12日公開(リトアニア)
2019年1月11日公開(アメリカ)

 

2018年10月15日
Kauno Zinios by モニカ・リマイテ
引用元: "Tarp pilkų debesų – geriausias šio amžiaus lietuviškas filmas"