バルト神話の雷神「ペルクーナス」

Feb 17, 2024

バルト地方にも存在する神話

有名なギリシャ神話やローマ神話の他にも北欧神話やスラヴ神話などさまざまな神話が存在し共通点が多いことはよく知られています。

「バルト神話」(リトアニア神話)もまた同じくこれらの神話と共通点が多いのですが、今回はその中からバルト神話で一番有名と言って良い雷の神ペルクーナス(Perkūnas)についてご紹介したいと思います。

雷の神様というとギリシャ神話のゼウス、ローマ神話のジュピター、北欧神話のトール(ソー)をイメージするところですが、結構共通点も多い雷神ペルクーナス。

雷の神がなぜバルト神話で重要な位置付けなのか詳しく解説していきたいと思います。

 

ゼウスやトール(ソー)との共通点

空に轟く雷は力強い自然現象であり多くの神話では神が実体化されたものだと捉えられてきました。バルト神話では雷を司る神は「ペルクーナス」(または「ペルクナス」)と呼ばれていて民間伝承(フォークロア)の歌や伝説に数多く登場します。

そのイメージは北欧神話のトール/ソー(Thor)のような中年男性として描かれることが多く、またギリシャ神話のゼウス(Zeus)のような老人男性として描かれる場合もあります。

どのようにしてこの神が現れたかは不確かですが、バルト神話を信仰する人々の中でペルクーナスは最も崇拝され知られる神となりました。

 

 

サンスクリットからフィンランド語まで広がるバリエーション

ペルクーナス(Perkūnas)の名前にはバルト地域とフィンランド語圏で複数のバリエーションがあります。リトアニア語では彼の名前はペルクーナス、ラトビア語ではペルコンス(Pērkons)、またヨトヴィング語ではパークンス(Parkuns)、さらに古プロイセン語ではペルクンス(Perkūns)と呼ばれています。

スラブ語のペルン(Perun)、サンスクリット語のパルジャーニャ(Parjanya)、フィンランド語のペルケレ(Perkele)、ギリシャ語のケラウノス(Keraunos)とも言語的に関連しており、それらは全て雨・空・雷の神としてのペルクーナスの役割に関係しています。

 

最高神に次ぐ2番目の神

ペルクーナスは最高神ディエヴァス(Dievas)に次いで2番目に重要な存在。バルト神話では天地創造についてははっきり描かれていませんがディエヴァスがその大きな役割を担っているとされています。

また雷神ペルクーナス、海神ポトリンポ(Potrimpo)、冥府の神パトラス(Patulas)の三大神が生命の誕生に関わっているとしています。

これはギリシャ神話の三大神として有名な雷神ゼウス、海神ポセイドン(Poseidon)、冥府の神ハデス(Hades)との共通点と言え、バルト神話とギリシャ神話の三大神は良く似た役割を担っていたと考えられています。

三大神の中でも最も卓越した存在であるゼウスとペルクーナスの主な違いは、ゼウスが最高神そのものとされているのに対しペルクーナスは最高神ディエヴァスに仕える神であるということ。この点は北欧神話の最高神オーディン(Odin)に仕えるトール(ソー)と似た位置付けとされています。

 

世界は妻への贈り物

ペルクーナスは妻となる大地の女神ジェミナ(Žemyna)と恋に落ちたあと天地を創造する力を得ました。そして贈り物として地球上の動物や植物など全ての生きとし生けるものを創造したのです。またそれらを養うための雨も大地に降らせました。

そのためペルクーナスは雷神としてだけではなく稲妻、豪雨、炎、戦い、法律、秩序、繁栄、山、樫の木が人格化したものとしても知られています。

冬の終わりに落ちる最初の稲妻はペルクーナスが花を咲かせるよう大地を刺激して起こしているものとされています。そしてこの落雷により露が降り春の到来を告げるとされています。

そのため、この雷が起こる前に種を蒔いたり、畑を耕すことは神の怒りに触れるため禁じられていて、さもないと神は春を告げる雷雨を与えず作物が育たないのだと信じられています。

またペルクーナスはジェミナとの間に4人の子を授かり、その4人は後に東西南北の方角となりました。

 

妻の浮気と月の満ち欠け

太陽の女神サウレ(Saulė)はペルクーナスの最初の妻で、月の神メヌリス(Mėnulis)とともに世界を照らしていました。ある日、サウレはメヌリスと浮気をしペルクーナスを裏切るとそれを知ったペルクーナスは怒り、罰として1日を日と夜に分けメヌリスを夜にサウレを日に閉じ込め二人が二度と出会わないようにしました。

メヌリスはそれでもこの罰を気に病むことなく明けの明星の女神アウシュリネ(Aušrinė)など他の女神と関係を持ち続けました。ペルクーナスは罰としてメヌリスを強く叩きますが彼の素行は一向に変わりません。頭にきたペルクーナスはメヌリスを何度も何度も叩き続けるようになりました。これが月の満ち欠けの始まりとされ罰を受けると月が欠け、傷が癒えると月が満ちるとされています。

 

戦神としてのペルクーナス

ペルクーナスは多くの武器を抱える大戦士としても描かれています。しかし彼は戦の場には現れるわけではなく、その力は悪霊と戦うために使われていました。特によく知られている武器が「弓矢」と「斧」で、天空の鍛冶職人としても知られていました。

放たれた矢は稲妻となって落ち、矢が足りなくなると自ら鉄を鍛えて作り上げていたともされています。これらの矢は魔法の炎で鍛えられバルト諸国の人々の間では雷のことを「空の炎」や「天の炎」と表現しているほどです。また彼を信仰する者は邪気から自らを守る魔除けのため小さな斧を携えてることがあります。

 

雷のゴロゴロは車輪のゴロゴロ

ペルクーナスは赤く焼けた鉄や炎でできているチャリオット(二輪の戦車)で空を移動していたとされ、二頭のヤギが引いているとする説と二頭の白馬が引いているとする説が存在します。またこれらの動物は石や金属でできていたとも言われています。

ペルクーナスはこのチャリオットに乗って悪霊を追いかけ雷の弓矢で撃ち落とすのです。雷が落ちる前のゴロゴロと言う音はチャリオットが動く時の音だという説や、持っている二つの石を火打ち石のようにぶつけて音を出しているという説もあります。

またチャリオットに乗ったペルクーナスはしばしば北斗七星を含む「大ぐま座」と同一視されています。

 

悪霊ヴェルニアス退治

バルト神話ではペルクーナスと地獄からの悪霊ヴェルニアス(Velnias)がよく話題になります。地上から家畜の牛や肥料を盗むヴェルニアスは大きな木の空洞や石の下に隠れたり、黒猫、犬、豚、山羊、あるいは人間など様々な動物に化けて逃げ回ります。

ペルクーナスはヴェルニアスを見つけると雷を落として退治するのですが、雨が降らない時に落ちる雷はヴェルニアス退治の雷だと位置付けれらています。そのため雷は大地から邪気を払う神聖な現象だとされているのです。

雷が暴風雨を伴った嵐に変わった時この戦いの終わりが近いことを示します。ヴェルニアスをはじめとする悪霊を浄化し盗まれた家畜や武器も取り戻し天候も回復するという訳です。

 

樫の木は特別な木

バルト地方で多く自生している樫(オーク)の木はペルクーナスの神聖な木とされています。彼を祀る神殿には聖像や崇拝物の近くに樫が生えていることが多いのです。

ペルクーナスへの礼拝の際には司祭は火打石を打って火を起こし、樫の木だけを使って火を焚べ儀式の間消えることのない炎を灯し続け、昼夜を問わずその炎が続くようにしているのです。

北欧の部族テュートン族(Teutons)がリトアニア西岸を侵略した際、大きな樫の木の下に小屋を見つけ異教文化であるペイガン(Pagan)の司祭によって灯された炎が消えることなく灯っていたとされています。そしてその大きな樫の木は神聖なものとして崇められ、木の空洞の中にはペルクーナスの偶像があったのです。


 

恵みの雨

大地が干ばつにあった際にペルクーナスへの礼拝が行われるとされていて、ペルクーナスの神殿の司祭は特別な儀式を森の奥深くの丘で行い「黒い子牛」「黒い山羊」「黒い雄鶏」が神に捧げられます。これらの生贄を捧げると食事や飲み物がまず神へ奉納され炎の前に捧げらます。

特別な儀式を終えると、食事と飲み物は炎の中に納められ大地に雨をもたらすようペルクーナスに祈りが捧げられます。このことは儀式における最初の食事は神に捧げられるということが象徴されています。その後にその土地の人々へと食事と飲み物が振る舞われるのです。

 

バルト神話の特別な神

ペルクーナスはバルト神話においてとても突出した神格であるにも関わらず、他の神話同様にその資料の少なさから多くのエピソードは時間とともに消えていきました。

それでも残されたこうしたエピソードから雷神ペルクーナスがバルト諸国の人々の信仰に大きな役割を担っていた証拠になっているのは間違いありません。

 

おわりに

ペルクーナスはバルト神話において重要な存在であることが分かりました。地方によって呼び方も異なるようですが様々な形で存在しているようです。

最後にリトアニアでペルクーナスが登場する作品を少しご紹介します。

リトアニアの有名画家チュルリョーニスによる絵画でタイトルはズバリ「ペルクーナス」。雲の隙間から見える大きな手は雷を握りしめているように見えます。左下で揺れるのは樫の木かもしれません。

"Perkunas" M.K.チュルリョーニス(1909年)

 

またリトアニア神話では琥珀にまつわる伝承の中にもペルクーナスが登場します。バルト海から海岸に打ち上げる琥珀の由来を語った伝説「ユラテとカスティティス」。

ペルクーナスの残酷で容赦が無い仕打ち。神の与える罰が度を越しているのは不死身の神だからこその神話あるある。こちらもぜひご覧になってみてください。

リトアニア神話「ユラテとカスティティス」

 

2024年2月17日
by hshmtyshk

 

引用
Fandom "Perkūnas"
Story to Tell "Amazing Images Used In Perkunas"

 

リトアニアの伝統的なお酒はSventeで。

 


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