リトアニアを象徴するお酒

こんにちは。お酒を中心にリトアニア製品の輸入を担当している橋本です。リトアニアを象徴するお酒といえば何でしょうか?今回は伝統のあるリトアニアのお酒という内容で解説していきたいと思います。

 

目次
  • リトアニアといえば何のお酒?
  • お酒大国リトアニア
  • 厳し過ぎる!リトアニアのお酒ルール
  • リトアニアの代名詞"ミード"
  • リトアニアだけの味"ミードネクター"
  • 実はリトアニアもウォッカ名産地
  • "PGI登録"や"受賞歴47回"の人気ブランド
  • "穂入り"や"オーガニック"も
  • "ライ麦100%"のウォッカ
  • リトアニアを象徴するお酒

 

リトアニアといえば何のお酒?

日本のお酒といえば海外で"Sake"という名称が浸透している日本酒でしょう。ご当地銘柄も地域ごとにあって国内外の観光客のお土産にもよく選ばれていることでしょう。その他にも焼酎や梅酒、五大生産地に選ばれているウイスキーも世界的に有名です。

ではリトアニアではどんなお酒が有名なのでしょうか?

その答えは”ミード”と”ウォッカ”になるでしょう。伝統ならリトアニア国家遺産にも登録されている蜂蜜のお酒ミード、知名度なら大手メーカーが手掛けるウォッカになるでしょう。

その他にもブドウを使わずに作られるベリーワインやビールの消費も非常に多くリキュール類までカウントしていたらキリがないくらいお酒大国でもあります。

 

私はバルト三国の中でもリトアニアのお酒に特化して扱っているため情報もリトアニアに偏りがありますが、そのバイアスを差し引いてもバルト三国のラトビアやエストニアと比較してお酒の個性はリトアニアが突出している印象です。

ちなみにラトビアでは"Black Balsam"(ブラックバルザム)と呼ばれる真っ黒なハーバルリキュールが有名。エストニアではホワイトラムとバニラなどのスパイスで熟成した甘口の"Vana Tallinn"(ヴァナタリン)が国を象徴するお酒ではないでしょうか。どちらもお土産に便利なミニボトルがあったり空港でも購入可能です。

(左)ラトビアのお酒「ブラックバルザム」 / (右)エストニアのお酒「ヴァナタリン」

(左)ラトビアのお酒「ブラックバルザム」 / (右)エストニアのお酒「ヴァナタリン」

 

お酒大国リトアニア

バルト三国に位置するリトアニアは、もともとソ連の支配下にあった歴史がありウォッカなどの度数の強いスピリッツ系のお酒は得意。一方、中世時代のリトアニア大公国はヨーロッパで一番大きな国だった歴史もありその貴族たちの高貴な飲み物だった蜂蜜のお酒ミードや、さらに10世紀前後まで遡るとバルト海を牛耳っていた海賊ヴァイキングが愛飲していたお酒としてミードが登場します。

実はリトアニアはお酒の消費量が尋常ではないんです。人口300万人弱の国なので総消費量では日本やアメリカには及びませんが、一人当たりのアルコール消費量では2010年以降常に世界ランク10位以内で2012年には世界2位も記録しています。

一方で自殺率も非常に高いという不名誉な記録を持っていて2000年〜2017年にかけて世界2〜5位を行ったり来たりする状態が続いていました。

ソ連からの独立以降、”旧ソ連”のイメージから”北欧”のイメージへとシフトチェンジを行いたいリトアニア。飲酒がもたらす様々な負の影響を抑えようとリトアニア政府はお酒の消費量を減らすための施策を2018年1月1日からスタートさせることになります。

 

厳し過ぎる!リトアニアのお酒ルール

まず、お酒類の広告が完全に禁止されます。道路の看板、本の背表紙、テレビやラジオ、インターネットのバナー、ありとあらゆる広告が禁止になりました。メーカー側は苦し紛れにノンアルコール飲料の宣伝をして凌ぐほかありません。

続いて飲酒可能年齢を18歳から20歳に引き上げ。若者からお酒飲む習慣を遠ざけようという施策。リトアニアはバスケ大国で平均身長も男性180cm、女性167cmと長身の国なので私より身体の大きな17歳の義弟が向こう3年お酒が飲めなくなったのは少し気の毒。

さらに酒屋の営業時間を朝10時〜夜8時、日曜は朝10時〜昼3時に制限。買い溜めすれば良いだけですが、その日のノリで買い付けることを減らそうということでしょうか。

メーカー側からすれば死活問題にもなりかねない様々な施策ですが、良質のお酒を生産するクラフト系の中小企業は輸出を強化するなど海外取引には力を入れている印象があります。2017年からリトアニアのお酒輸入に関わり始めた私としては嬉しいニュースですが、実情を知ると生産者側は大変なようです。

 

リトアニアの代名詞"ミード"

さて、少し脱線しましたがリトアニアのアイコニックなお酒といえばミードとウォッカだという話でしたね。

ミードは世界最古のお酒とも呼ばれる蜂蜜のお酒でその起源は9000年前とも言われ、ビールやワインなどよりも歴史が古くかつては貴族の飲み物として飲み継がれていました。現代ではビールやワインなど辛口や低糖質のお酒が主流となりその影を潜めていますが、ファンタジー系の映画、小説、ゲーム界隈では現在でも変わらず憧れのお酒に位置付けられているようです。(ちなみにスカイリムというゲームに出てくるミードはリトアニアのミードと同じジュニパーベリー入りという設定でした。)

 

バルト三国や東欧では昔から養蜂が盛んでミードが衰退しても蜂蜜そのものの生産は続きます。そもそもミードのために蜂蜜を作っていたわけではないので当然といえば当然ですが、リトアニアも蜂蜜大国として養蜂が盛んに行われてきました。

そんな中で1959年にバルト三国で唯一のミード専門の醸造所がリトアニアで創業します。これが後にリトアニア国家遺産の銘柄を多数抱えることになる"Lietuviskas Midus"(リエトヴィシュカス・ミドゥス)です。

高品質なリトアニア産の蜂蜜を100%使用し、さまざまなハーブで風味付けした「メセグリン」と呼ばれるスタイルのミードを醸造。"Stakliskes"(スタクリシュケス)と呼ばれる銘柄はミードとしては唯一PGI(EU地理的表示保護)にも登録されリトアニアのお酒の代名詞となりました。

バルト三国ともに蜂蜜の生産が有名ですがミードの醸造となるとリトアニアだけ。やはりリトアニアを象徴するお酒といえます。

 
ミードはリトアニアのスーパーでも手に入ります。

 

リトアニアだけの味"ミードネクター"

また特筆すべきはミードを蒸留して造られる「ミードネクター」と呼ばれるリキュールです。ミードは世界中で生産されているのに対してこのミードネクターはリトアニアだけで生産され、正真正銘のリトアニアを象徴するお酒といえます。

ミードネクターはミード、ミードの蒸留酒、ハーブの蒸留酒、ベリー果汁を原料として造られます。ハーブやベリーの種類とアルコール度数の違いによっていくつかの銘柄があり、中でもアルコール50%の”Suktinis"(スクティニス)はハーブの高い香りとほんのりとした蜂蜜の甘さ。

淡いルビー色が印象的な銘柄でリトアニア国家遺産にも登録されています。後述のウォッカのような身体を温めてくれるお酒は寒冷地帯ならではの発想かも知れませんね。

甘口がお好きな方にはミード「スタクリシュケス」、とことん珍しいお酒が好きでアルコール度数は問わないという方にはミードネクター「スクティニス」がオススメです。

リトアニアだけで造られている「ミードネクター」にも種類があります。

リトアニアだけで造られている「ミードネクター」にも種類があります。

 

実はリトアニアもウォッカ名産地

ウォッカは穀類(大麦、小麦、ライ麦、とうもろこし)やイモ類(じゃがいも)を原料として糖化、発酵、蒸留して作られるスピリッツです。

ウォッカの歴史を辿るとそのルーツはロシアかポーランドかという議論に辿り着くかと思います。どちらも良質のウォッカを生産するウォッカ大国でしょう。

でもちょっと待ってください!

かつてヨーロッパ最大の国土を誇り後にポーランドと併合したリトアニア。さらにロシア帝国とソビエト連邦による2度の支配から独立を経験しているリトアニア。ウォッカ大国の2国の間に位置し、そのルーツを共にしているリトアニアも実は良質のウォッカ生産地なんです。

またウォッカは白樺の活性炭を使ってろ過されることが主流ですが白樺の木はリトアニア中に自生していて、ウォッカ大国でもあるのです。

2024年現在、ウォッカのPGI(EU地理的表示保護)登録銘柄は9銘柄(申請中を含む)ありロシアやポーランドの銘柄も並んでいますが、リトアニアの銘柄も1つ登録されています。

PGI(EU地理的表示保護)は”Protected Geographical Indication”の略で、製品の品質が原産地の特性を持つことを示し、知的財産権のひとつとしてEU圏内で保護される制度です。

 

“PGI登録”や”受賞歴47回”の人気ブランド

リトアニア産ウォッカのおすすめブランドを順番にご紹介したいと思います。

まずは「リトアニアン・ウォッカ(Lithuanian Vodka)」シリーズから”Lithuanian Vodka Original”(リトアニアン・ウォッカ・オリジナル)。前述のPGI登録のかかった銘柄でリトアニア産の穀物を銀製のフィルターで蒸留したウォッカです。

同シリーズの”Lithuanian Vodka Gold”(リトアニアン・ウォッカ・ゴールド)もオススメで、国内外のコンペで延べ47回の受賞歴を誇る大人気ウォッカ。どちらもアイスコールドショットやカクテルベースに最適です。

 

(上)リトアニアンウォッカ・ゴールド / (下)リトアニアンウォッカ・オリジナル

(上)リトアニアンウォッカ・ゴールド / (下)リトアニアンウォッカ・オリジナル

 

“穂入り”や“オーガニック”も

二つ目のブランドはボトルが印象的な「スタンブラス・ウォッカ(Stumbras Vodka)」シリーズ。

シリーズのオリジナルにあたる”Stumbras Vodka”(スタンブラス・ウォッカ)は原料の大麦の穂がボトルに入っていてお土産のインパクト大。リッチな麦の香りとまろやかな口当たりでアイスコールドショットがオススメとのこと。

”Stumbras Vodka Premium Organic”(スタンブラス・ウォッカ・プレミアムオーガニック)はEUオーガニック認証を取得した穀物のみを使用したオーガニックウォッカです。

その他、ラズベリー、クランベリー、クインスなどのフレーバードウォッカのボトルにもそれぞれ原料の粒が入れてあってお土産に喜ばれそうなボトルアプローチです。(ちなみに500ml以上のボトルでないと入っていないようです。)

 

麦の穂入りの「スタンブラス・ウォッカ」

麦の穂入りの「スタンブラス・ウォッカ」

 

“ライ麦100%”のウォッカ

最後に変わり種でライ麦100%のウォッカ”Samanė”(サマネ)をご紹介。

リトアニアはライ麦の生産地として有名でリトアニアの朝食の代名詞ともいえる「黒パン」はライ麦が原料。そのライ麦を原料として作られたウォッカで焼き立てのパンのような香ばしさがあるウォッカです。

“Samanė”は「密造酒」を指す”Moonshine”(ムーンシャイン)をリトアニア語で表した単語。”Samagonas”(サマゴナス)や”Naminė”(ナミネ)などいくつかの表現がありますが、意味合いとしては「自家製ウォッカ」といったところ。14世紀頃のリトアニアでウォッカの製造が制限されたことを受け、人々は家や森の中でひっそりと自家製ウォッカを製造するようになったそうです。

またリトアニアでウォッカは”The Devil’s Drops”(悪魔の雫)とも呼ばれていて、人間に飲ませれば動物のように容易にコントロールできる飲み物として悪魔が人間を騙すために使っていたという言い伝えもあるそうです。ボトルに悪魔の笑顔が描かれているのも納得ですね。

 

ライ麦ウォッカ「サマネ」はかつて日本に流通していたことも。

ライ麦ウォッカ「サマネ」はかつて日本に流通していたことも

悪魔が不気味に笑うボトルには"Moonshine"の文字も。

悪魔が不気味に笑うボトルには"Moonshine"の文字も。

 

リトアニアを象徴するお酒

リトアニアを象徴するお酒は「ミードとウォッカ」。いかがでしたでしょうか?結構長くなってしまったので簡潔にまとめると、、、

伝統で選ぶなら蜂蜜のお酒「ミード」。甘口がお好きな方はミード「スタクリシュケス」、珍しさならアルコール50%のミードネクター「スクティニス」。

メジャーなお酒ならウォッカ。味で選ぶなら受賞歴の多い「リトアニアン・ウォッカ・ゴールド」、インパクト重視なら麦の穂入りの「スタンブラス・ウォッカ」や「スタンブラス・ウォッカ・プレミアムオーガニック」、珍しさならライ麦100%の「サマネ」。

ミニボトルを揃えている銘柄も多いのでお土産選びで悩んだ時はぜひ参考にしてみてください。日本で飲みたいという方は当店でも一部取り扱っていますのでぜひオンラインショップをのぞいてみてください。

 

「乾杯」はリトアニア語で"Į sveikata"(イ・スヴェイカタ)。直訳すると「健康のために」。どれだけお酒好きやねんリトアニア!

 

 

 

[参考URL]

WHO Data "Total alcohol per capita consumption" - https://data.who.int/indicators/i/EF38E6A/EE6F72A

WHO Data "Suicide mortality rate" - https://data.who.int/indicators/i/F08B4FD/16BBF41

The European Commission "the EU geographical indications register" - https://ec.europa.eu/agriculture/eambrosia/geographical-indications-register/

Vikipedija "Samanė" - https://lt.wikipedia.org/wiki/Saman%C4%97

 

[筆者]

橋本佳樹

リトアニア製品の輸入販売を行うスベンテ合同会社代表。社会人時代に音楽業界、芸能業界でのキャリアを経て海外へ留学。現在の妻と出会いリトアニアを知る。帰国後は全く異なる輸入業に挑戦するため輸入商社で修行ののち独立し起業。リトアニアのお酒を中心に輸入業を経営しながらリトアニアの情報発信を行なっています。