蜂蜜酒ミードの4大ジャンルについて
世界最古のお酒としても知られるはちみつのお酒「ミード」。その歴史については以前の記事でご紹介させていただきました。(おさらいしたい方はコチラ:記事「ヨーロッパにおけるミードの歴史」)
今回は、そのミードの「種類・ジャンル」について深掘りしていきたいと思います。とはいえ、歴史が世界一長いお酒でかなり多岐にわたるので今回は導入部分の概要的なところでミードのジャンルを紹介したいと思います。さらに細分化されたジャンルは別の記事でご紹介できればと思っています。
ミードもクラフトビールみたいにジャンルが多い
クラフトビールにはラガー、エール、ポーター、ボック、IPAなどなど様々なジャンルが存在しますが、ミードにも多くのジャンルが存在しているのをご存知でしょうか?
ミードの輸入を続けてきて「世界最古のお酒」「ファンタジー小説」といったワードは頻出しているのですが調べていくともっと階層が深いことがわかってきました。
その深い階層が知られていない理由として、海外(英語)の情報が日本で翻訳されて広まっていないことが考えられます。現代ではミードよりビールやワインなどドライ系が好まれる傾向があり、大手メーカーから見切られ深掘りされることなく「忘れられたお酒」になってきたのかもしれません。
それでもイベントなどで販売を行なっていると海外のお客様の中にはミードを見て「メセグリンね」「メロメルね」などジャンルの話が先に出てくることが珍しくありません。ミードが何か、という説明が全く不要なのです。
日本ではミードの知名度がそもそも低いのかもしれませんが、日本語での情報の少なさがその要因だと思い英語の文献を元に日本語で解説しようということでこの記事を書くことにしました。
ミードを知っている方、飲んだことがあるという方(あるいは造ってる方!)にも改めてミードの多様性を知っていただき次回またミードを飲む機会があった際の参考にしていただければ幸いです。

「世界最古のお酒」「ファンタジー」今回はそこからさらに知識を深めていきます!
抑えておきたい「4大ジャンル」
今回ご紹介するミードのジャンルはギューっと絞って「4ジャンル」としました。順番にご紹介していきましょう。
- オーソドックス系:トラディショナル(Traditional)
- フルーツ系:メロメル(Melomel)
- ハーブ&スパイス系:メセグリン(Metheglin)
- 特殊系(その他):スペシャル(Special)
一番シンプルな「オーソドックス系」
オーソドックス系(Orthodox)は至ってシンプルで蜂蜜と水と酵母の3つの原料で造られるのが特徴。はちみつの使用量やアルコール度数の強弱によってさらにいくつかの種類に細分化されますが、ひとまず「いちばんシンプルなスタイル」と覚えておきましょう。
Traditional Mead(Show Mead)、Short Mead(Hydromel)、Sack Mead(Great Mead)、Sparkling Meadなどさらに詳細なスタイルは「オーソドックス系ミードの4スタイル」の記事をご覧ください。

「トラディショナル」はシンプルで最も難しいとされる生産者の腕が試されるジャンル。
果実味豊かで飲みやすい「フルーツ系」
蜂蜜、水、酵母の3原料の他にフルーツを使ったミードは「メロメル(Melomel)」と呼ばれています。シトラス、ドライフルーツ、トロピカルフルーツ、ストーンフルーツ、ベリーなど果物の種類によって味のバリエーションも豊富。冷やして爽やかに飲むタイプが多い印象。
Melomel、Pyment、Omphacomel、Cyser、Morat、Black Meadなどさらに詳細なスタイルは「フルーツ系ミード「メロメル」の8スタイル」の記事をご覧ください。

フルーツの果汁が飲みやすさを与えてくれる「メロメル」も人気のジャンル。
香り高くホットもいける「ハーブ&スパイス系」
3原料の他にハーブやスパイスで風味付けしたミードは「メセグリン(Metheglin)」と呼ばれています。スパイスの違いで味わいも大きく変わるが香りが高いのが特徴。温めて広がる香りを楽しむなど飲み方に幅があり、クリスマスに振る舞われるミードもこのタイプが多い。
Metheglin、Mulled Mead、Capsicumelなどさらに詳細なスタイルは「ハーブ&スパイス系ミード「メセグリン」スタイル」の記事をご覧ください。

ハーブとスパイスの「メセグリン」は温めても美味しいのが特徴。
もはや実験的な「特殊系(その他)」
歴史の一番古いお酒ということもあって様々なタイプが試されていることだと思いますが、上記以外をその他の「特殊系」としてみました。お酢、モルト(ビール)、メープルシロップ、乳酸菌など組み合わせも実験的で興味をそそられるものばかり。このジャンルは私も飲んだことがないものばかりです。
Bochet、Braggot、Acerglyn、Oxymel、Sour Mead、Rhodomelなどさらに詳細なスタイルは「その他の特殊系ミード6スタイル」の記事をご覧ください。

以上がミードの主な4ジャンルになります。さらに細分化された詳細は後日ご紹介していきたいと思いますが、ミード初心者の方には「大きく4つのジャンルが存在する」という事実を抑えておいていただければと思います。
番外編「蜂蜜を使った世界のお酒」
思いのほかシンプルな記事になったので、番外編として「蜂蜜を使った世界のお酒」を3つご紹介します。
フィンランドの「シマ(Sima)」
シマはフィンランドで作られている蜂蜜の他にレモンやレーズンを使用した低発酵のミード。元々アルコール17%ほどでドイツやラトビアから輸入されてきた飲み物だったそうですが、現在はアルコール度数1%以下と低く炭酸の含まれたスパークリングで飲まれています。
毎年5月1日は「ヴァップ(Vappu)」と呼ばれる祝日で「ヴァルプルギスの夜(Walpurgis Night)」という大きなお祭りが開催されるそうですが、そのお祭りの中でムンッキ(Munkki)と呼ばれるドーナツやティッパレイパ(Tippaleipä)と呼ばれるファンネルケーキなどと一緒に振る舞われるそうです。

低発酵ミード「シマ」とファンネルケーキ「ティッパレイパ」 (c) Vappua vietettiin ulkona
メキシコの「シュタベントゥン(Xtabentún)」
シュタベントゥンはメキシコの東部ユカタン州で造られる蜂蜜とアニスから造られるお酒にラムを加えたアルコール30%前後のリキュール。
タービナ・コリボサ(Turbina corymbosa)というアサガオの一種である植物から採れた蜂蜜が使われ、この植物の名前をマヤ時代の現地語でシュタベントゥンと呼び、マヤ文明の時代に儀式で振る舞われたバルチェ(Balché)と呼ばれるお酒が起源となっているそうです。

メキシコのシュタベントゥンメーカー「Casa D’Aristi」のサイトより引用
エチオピアの「テジ(Tej)」
蜂蜜と水にゲショ(Gesho)やエチオピアン・バックソーン(Ethiopian Buckthorn)の名で知られる植物を使ったアルコール7〜11%程度のお酒。紀元前から飲まれていたかなり歴史の古いお酒のようでミードと比較して紹介されることも多く「世界最古のお酒」の味わいがより忠実に再現された一例と捉えられています。
お祭りや結婚式、新年を祝う際に振る舞われる国民的なお酒で、フラスコのような形のボトルで提供されているそうです。
エチオピアの国民的お酒「テジ」もはちみつが使われています。(c) A.Savin, Wikipedia
おわりに
というわけで「蜂蜜酒ミードの4大ジャンルについて」と「蜂蜜を使った世界のお酒」3選をご紹介しました。それぞれの細分化した先が面白いのですが、ここでそれを展開するとかなり長くなるのでサクッと導入部分的な扱いにしてみました。(そしたら逆に短くまとまってしまった。。。)
ミードは一部コンペなどでは定義や基準が設けられているかもしれませんが「原料〇〇を◯%を使用する」などといった定義が厳密ではなく、アレンジの自由度が高い点が良さだと思います。それゆえに同じジャンルでもミーダリー(ミードのブルワリー)ごとに味わいが大きく異なるわけです。
この辺りは近年どっと増えたクラフトビールと似ていますね。アメリカではクラフトミードの生産者はかなり多いようでいろんな種類や個性的なラベルを見かけます。「ミードを飲んだ」というバッジは容易に獲得できても「ミードを制覇した」というバッジはもっとずっと先にあるわけですよね。
次回以降の記事ではそれぞれのジャンルを細かく紹介したいと思っていますので、ミード好きな方はぜひそちらも読んでいただけると幸いです。
それではまた。
当店オンラインショップで取り扱っているリトアニア産ミードは主にこの3種類。少し割高ですがAmazonでも買えます。(名前で検索してみてください!)
- スタクリシュケス(Stakliskes)Alc.12% - ジャンル:ハーブ&スパイス系「メセグリン」
- トラカイ(Trakai)Alc.15% - ジャンル:ハーブ&スパイス系「メセグリン」
- ミルダ(Milda)Alc.10% - ジャンル:フルーツ系「メロメル」
[筆者]
橋本佳樹
リトアニア製品の輸入販売を行うスベンテ合同会社代表。社会人時代に音楽業界、芸能業界でのキャリアを経て海外へ留学。現在の妻と出会いリトアニアを知る。帰国後は異業種の輸入業に挑戦するため輸入商社で修行ののち独立し起業。リトアニアのお酒を中心に輸入業を経営しながらリトアニアの情報発信を行なっています。